本記事では、大学生の僕が2019年に読んだ中で最高に面白かった10冊を紹介します。
kinkonnyaku.hatenablog.com
去年も同じようなことをしてたんですが、今年はノンフィクションかつ、2019年に出版されたもの、という条件つきでつらつらと感想を述べていこうかと思います。
あと、書いてる人は心理学専修なので、ジャンルの傾向としては人文系に寄ってたりします。
前置きはここまでにして、さっそく紹介していきましょう。
1. 居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書
2019年で一番面白かった本。人文界のガブリアス。
京大出身の心理学博士は、職探しの末に沖縄の精神科デイケア施設に辿り着く。
心理療法(セラピー)を学んだ著者にとって、そこは今までの価値観が逆転する不思議の国だった――。
様々な個性的なキャラクターに著者のユーモアあふれる文体が合わさって最強の一冊に仕上がってます。
笑って泣ける内容ながらも、セラピーとケアという「人を癒す」という同じ目的を持ちつつも絶対的に違う二つの概念の対比が印象的です。
果たして、セラピー化する日本と、そこから押しやられる人々の行く末は。
「心の深い部分に触れることが、いつでも良いことだとは限らない」
「自立を良しとする社会では、依存していることそのものが見えにくくなってしまうから、依存を満たす仕事の価値が低く見積もられてしまう」
読み始めたら一気に最後まで読める、今年最強のスペクタクルメンタルヘルス学術書。
2. ヤンキーと地元
やばすぎ。
僕は田舎のヤンキーを常々バカにしていたんですが、これを読んでそれができなくなりました。
上下の関係しか許されない、無限のヒエラルキー社会。
過酷な地元の掟のもとで、若者たちはどのように生きるか。
暴走族・建設会社・性風俗・半グレ、そして地元を見切った者まで、10年にわたって沖縄の「ヤンキー」たちの生活を記録した軌跡。
無数の暴力、無数のDV、無数の恫喝。
単に沖縄のヤンキー文化を知る以上の価値がある一冊。
読書は他人の人生をもっとも安全にたどる手段なんだと、本当にそう思った。
3. ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から
人は科学的に考えることがもともと苦手なのか?
世界最大のサイエンス大国であるアメリカで、今何が起こっているのか。
科学記者がアメリカでの科学の扱われ方の現状を、現地で取材した意欲作。
地球温暖化と進化論の扱いが主なテーマとして描かれている。
「ノアの箱舟」博物館から、地球平面論者まで、アメリカの様々な顔が科学という切り口から見えてきます。
やはり、根底にあるのはキリスト教と科学の軋轢。
日本とは異なっていながらも、どこかに通ったものを感じるアメリカの科学観について知ることができる良書。
4. ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想
色んな意味で、暗黒な本。
表紙も黒ければ内装も黒いし、内容もスカっとするほどダーク。
「新反動主義」とは、より古い社会構造への回帰や、政府形態の刷新を標榜する思想のことです。
この思想は、資本主義を極限まで加速させ、資本主義それ自体の外側を目指す「加速主義」と深く関わっています。
これらの思想の旗本は、ニック・ランド、ピーター・ティール、カーティス・ヤーヴィンの3人。
彼らがいかにして、これらの思想を現在にわたって展開してきたのかが俯瞰的に述べられています。
サイバー空間からシリコンバレーまでを席捲するこの思想は、どこから来てどこへ行くのか。
そして、テクノロジーと資本主義の未来に、彼らは何を見るか。
20年代を考えるうえで必須の一冊。
5. 生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想
『ニック・ランドと新反動主義』と対で読んでおきたいのがコレ。
「毎日毎日が、私たちに、消滅すべき理由を新しく提供してくれるとは、素敵なことではないか」
「われわれが生きて行けるのは、ただわれわれの想像力と記憶力が貧弱だからにすぎない」
「一冊の本は、延期された自殺だ」
これらはすべて、「ペシミストの王」シオランの言葉です。
日本ではまだあまり知られていない、この思想家についてのモノグラフ。
彼の思想はどこまでも暗くて、反出生的で、厭世的で、興味深い。
2020年はきっとシオランの年、今年のうちにこれを読んで元気に新年を迎えましょう!
最後に、シオランの言葉をもう一つ。
「生にはなんの意味もないという事実は、生きる理由の一つになる。唯一の理由にだってなる」
落ち込んだりしたときに読み返したい本です。
6. 「かわいい」のちから 実験で探るその心理
『居るのがつらいよ』が臨床心理の本で一番面白かったなら、基礎心理で一番面白かったのはこの本です。
女子ってすぐに両手をブンブン振り回しながら「かわいいー!!!」って言いますよね。
でも、その「かわいい」って、結局どういったものなんでしょうか?
この本は「かわいい」とはそもそも何か、性別によって「かわいい」のとらえ方はどのように変わるかなど、「かわいい」研究の全体をわかりやすく解説してくれています。
扱っているテーマは「かわいい」ものでも、それを検討するにはまったくかわいくないゴリゴリの手法が取られているギャップが面白いです。
かわいくなりたい女子から基礎心理学に興味のある人まで、ぜひぜひ読んでみてください。
7. 「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか
助けを求めない当事者の心理をどう理解しかかわるか。
いじめや自殺のニュースを見るたび、「彼らはどうして助けを求めなかったんだろう」と思っていましたが、その印象が覆されました。
自殺・自傷・薬物中毒・いじめ・性被害など、援助が必要なところから、なぜ声が発せられないのか。
「モノ」に依存している当事者が、安心してまず「人」に依存するためにはどうすればいいのか、福祉・心理・医療・教育のエキスパートが正面から向き合った一冊です。
一貫して語られるのは「居場所」の大切さ。
対人支援を志している人には特に読んでもらいたい本です。
8. 測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?
「測りすぎ」が生活を破壊する。
今、大学入試改革の話題が世間を騒がしていますが、それを考えるうえで非常に有効な一冊です。
本書は「成功へのカギは成果評価にある」という企業や国家の信念に疑念を投げかけ、測定そのものが目的と化している現状を批判しています。
教育・医療・行政からNPOまで、根拠のない数値目標がお題目のように唱えられ、本来の目的から逸脱していく様子を生々しく描いています。
大学ランキングを上げるために教育の質とは関係ないところにお金が費やされたり、犯罪とする基準を緩くすることで犯罪率を下げたり……どこかで見たようなケースからもっとバカバカしいものまで、過度な測定の弊害が目白押しです。
「測りすぎ」の問題が顕在化した今だからこそ、読んでおきたい一冊。
9. バンクシー 壊れかけた世界に愛を
「アートの世界は、最大級のジョークだよ」
路地裏のストリートアートから、世界でもっとも有名なアーティストの一人へ――。
東京で彼のイラストらしきものが発見されたのは記憶に新しいですね。
そんなバンクシーの痕跡を博物学専門の筆者が辿った一冊。
オークションで作品を裁断したのみならず、混沌としたディズニーランドのような遊園地を作ったり、変なホテルをオープンしたり。
様々な彼の活動が時間・空間的な背景から鳥瞰的に解説されています。
今をときめくこのアーティストについて知りたいなら、最高の一冊です。
10. 異世界と転生の江戸: 平田篤胤と松浦静山
リアルなろう系、転生したら江戸時代だった件。
江戸後期、天狗に連れられて異世界を見てきたという少年、さらに自分は他人の生まれ変わりだと自称する少年まで現れ、当時の知識人の注目を浴びました。
そんな少年たちに相対するは在野研究者である平田篤胤、隠居大名の松浦静山の二人。
そして、江戸時代の知識人ネットワークはどのように彼らの存在を扱ったのか。
未だ人々の創造の中で魑魅魍魎が跋扈する時代、当時の知の最先端は異世界の少年たちに何を見たか――。
熱心に探究する平田篤胤と冷静に少年たちを探求する松浦静山の対比が面白い、異色の歴史論考です。
以上で、2019年の面白かった本の紹介を終わります。
他にも、今年に出たノンフィクションなら、『心理学と7つの大罪』(みすず書房)、『ルポ教育困難校』(朝日新書)、『暴力と不平等の人類史』(東洋経済新報社)などが好きでした。
あと、話題になった『ケーキの切れない非行少年』(新潮新書)、『FACTFULNESS』(日経BP)もなかなか面白かったです。
バーっと今年読んだ本を見て思うことは、2020年を迎えるうえで、理想とする未来の社会の姿が完全に見失われているのではないか、ということです。
『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリの「我々がどうしたいか、ということが今後は重要になってくる」というテーゼがさらに真に迫るものになってきたな、という感想です。
未来の社会の姿の、超アグレッシブな形が加速主義、超パッシブな形がシオランのような反出生主義なのでしょうね。
ベーシックインカムだの、ムーンショットだの、未来の社会の姿を模索する取り組みは徐々に進められてはいますが、いずれも八方塞がりな印象があります。
そういった混迷から、(日本特有のガラパゴス的な)加速主義・反出生主義のブームが始まったら面白いな、とか個人的には思ってます。
蛇足はここまでにして、今年の書評は終わり、閉廷!
読んでくれた皆様、ありがとうございました。
2020年も、よき読書ライフをお過ごしください!!