きんこんぶろぐ

大学生の私が日々思うことを綴っていくブログ

フィクションになりたくて

「フィクションになりたい」

 

 私はいつも通り、適当に今思いついたことを口に出した。

 なぜそんなことを思いついたのだろうか? 

 春休みのあまりの暇さに頭をやられてしまったからだろうか。

 自分のそばに積んでいる『進化倫理学入門』、『反共感論』のような本を眺めながら、そう思った。

 

「えっ何、疲れてんの?」

 

 机を挟んで対面している少女が、呆れたように言った。

 彼女の名は平等院

 それが本名なのか、単なるニックネームなのかは私にはわからない。

 興味もそれほどない。

 

「フィクションの存在になりたい。退屈な日々にはもうウンザリした」

 

 いかにも中二病的な発言だと、心の中で自嘲した。

 

「何も行動を起こしてないからじゃん……」

 

 眉をひそめて、平等院氏はそう言い放った。

 

「退屈なら何か始めれば? バイトとか、サークルに入るとかさ」

 

 そういう正論は求めてない! と、マグカップに接吻するように、砂糖を入れ忘れたコーヒーをちびりちびりと口に含みながら思った。

 この飲み方が、いつか役に立つと私は信じている、おしゃれなデートスポットでキスをする時とか。

 苦いコーヒーを飲んでいるというのも、大人っぽくてそそられる。

 

 こういうことをしている時だけ、現実を忘れられる。

 国民年金の通書も、迫り来る20歳の誕生日も、自分がただの動物の一個体に過ぎないという事実も。

 

 かくいう平等院氏は口を尖らせてコーヒーを飲む私を見て、明らかに引いていた。

 

「いや、バイトとかサークルとかには入りたくないんだよ。あまり人間の敵意に晒されたくない」

 

「もう何もできないじゃん!」

 

「私は繊細なのでね」

 

 平等院氏は苦笑いした。

 傷つきたくない。面倒臭いことにも遭遇したくない。

 それでも、私はフィクションになりたいのだ。

 

「でもさ、フィクションの存在になれたとしても、案外退屈なままかもしれないよ」

 

 なんで、と私は言葉を返した。脚本があって、現実のことを無視したままでいられて、最高じゃないか。

 

「フィクションのキャラクターには彼らなりの現実があるんだよ。『誰かを守りたい』とかさ」

 

 それに、と彼女は話を続ける。

 

「脚本があっても、自分がモブキャラかもしれないし、下手したらバッドエンドかもしれないじゃん」

 

 確かに、と私は納得した。

 私たちが「二次元に行きたい」と口に出す時、自分が二次元でも取るに足らない存在になる可能性を大体の場合、全く考えていない。

 その物語のヒーローやヒロインと関わり合えるものだと、本気で信じ込んでいる。

 この世界で何者にも成れていない今、フィクションになったとしても、やはり何者にも成れないのかもしれない。

 

 そう考えると、なんだか元気が無くなってきた。

 私は、繊細だ。

 

「現実でも、未だ私はモブキャラだもんなぁ……」

 

「ま、まぁ。これから現実で主人公になればいいじゃん! 自分にとっての主人公は自分しかいないんだよ!?」

 

 明らかに気を落とした私を見て、彼女は面倒と感じながらも、励ましてくれたようだ。

 こういう時は優しさが心に染みる。

 

「ありがとあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリリュリリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )

 

 私は脱糞した。

 続きが思いつかなくなった。

 

 キャラ付けもなく、フィクションの世界を構築することに限界がきたのだ。

 世界を構築することは神に値することだ。

 神でさえ世界を作るのに6日も時間がかかったのに、人間風情が即興で世界を作り上げることができるはずがない。

 

 何が平等院だ。

 この世は不平等で溢れかえっている。

 

 いや、この私がいる世界すら、フィクションかもしれない。

 としたら私は何者だ。モブか? 

 グッドエンドもバッドエンドもなく、私にはデッドエンドしか残されていないのか。

 

 人生は続いていく。

 現実はブラックコーヒーのように苦い。

 それに接吻ができるほど、私は無頓着ではない。