きんこんぶろぐ

大学院生の私が日々思うことを綴っていくブログ

童貞が性病になった話 後編

7/27 晴れ

 

 「うーん、これは性病ですね」

 

 放課後の時間となると、空いている病院が少なく、私は小さな診療所で自らの息子を見てもらう羽目になった。

 

 時間帯のせいか、病院内は自分以外の患者が見当たらず、がら空きだった。

 

 還暦を超えているような老人の医師と、ガハガハ笑う看護師さんがいる診療所だった。

 「えっちな看護婦さんはどこ……?」と見渡したが、そんなものはない。

 

 泌尿器科はえっちな看護婦さんが標準装備されていると、当時の私は思っていた。

 単純にエロ動画の見すぎである。

 私はエロ動画の最初のシーンを飛ばさずにしっかり見る、純粋で律義な少年だったのだ。

 

 医師といえども、初対面の老人に自分の息子をじっくり眺められるのは、尋常じゃなく恥ずかしかった。

 老医師の私の息子を見る目はぎらぎらしていて、とても落ち着けなかった。

 一通り診察が終わると、息子への塗り薬を渡された。

 

 病名は「性器カンジダ症」だった。

 

 カンジダとは、性器付近に常在しているカンジダ菌が増殖し、おりものや痒み等の不快な症状をおこす病気のことである。

 

 カンジダ菌自体は健康な人でも皮膚、口の中、消化管、性器などにに存在する常在菌である。

 それが風邪や疲労、ストレス等、日常生活においての免疫力の低下、またホルモンの変化によって、カンジダ菌が増殖して発症する、らしい。

 

 また、女性の約20%が経験する女性特有の病気でもあるという。

 ほとんどのケースが女性で見られ、男性の患者はほとんど見られないらしい。

 

 そんなレアケースにはなりたくなかったと、私は内心毒づいた。

 

 実は、私は仮性包茎である。

 

 日本人男性の過半数が仮性包茎なので、これ自体は別に恥ずかしい話でもない。

 だが、この蒸れやすい環境がいくつかの不幸な要因と重なって、この激レアな発症に至ったのだろう。

 

 

 医師にお礼を言って、私は扉に手をかけた。

 その時だった。

 

 「あ、自慰行為は一か月以上しないでね」

 

 と、老医師にさりげなく、重大なことを言われた。

 

 え、きつくね?

 

 

 当時、高校生男子のほとんどがそうであるように、私もまた性欲絶対旺盛であった。

 

 性欲のはけ口の無さに数日間苦しんだが、三日も経つと流石に性欲は収まってきた。

 この数日間は、あまりにも見苦しいので詳細は省く。

 

 その後も、「なるほど、猛獣を飼いならすとはこういうことか(?)」と考えつつ、時々右手が怪しい挙動になりつつも、それをこらえてオナ禁に勤しんだ。

 

 息子への塗り薬はどうやら痒み止めの作用もあるらしく、痒みに耐えて中腰になりながら登校する、なんて事態は避けることができた。

 

 毎日欠かさず朝晩に息子に薬を塗るという行為は、それなりに苦痛だったが、これも数日たつと慣れてきた。

 

 明らかに、様々な大事な感覚が麻痺していた。

 

 

 さらに、本当に馬鹿だと思うのだが、私は性病になったことを、周囲に喧伝していた。

 

 男子校という世間から隔離された特異点の影響か、性病による疲れからか、私は自分の性病をネタにし始めていた。

 

 周囲からバカにされるのも当然で、さらに保健体育の授業で同時期に性病のことを扱っていたのがそれに拍車をかけた。

 

 かくいう私は、自身が性病だと喧伝していることを棚に上げて、尖圭コンジローマや梅毒、エイズといった重い性病ではなくてよかった、と心底安堵していた。

 

 これらの性病は下手すれば死に至ることもある重大なものであり、常在菌が元で起こるカンジダは、比較的マシな方の性病であった。

 

 エイズなどは、もともと人間固有の病気ではない。ゴリラやチンパンジーといった類人猿由来の病気だった気がする。

 とすると、誰が最初にゴリラと性交渉したのか、という話になってくる。

 

 エイズは男性同士の性交渉での感染が多いことから、ゴリラと人間のホモセックスによりエイズが人間に感染した、ということもあるかもしれない。

 

 なかなかに闇が深そうだ。

 少なくとも、カンジダよりは。

 

 

 性欲を飼いならし、入浴への渇望を堪え続けて二か月が経った。

 こうして、ようやく私のカンジダは完治した。

 

 どうでもいいが、「カンジダ」と「完治した」は韻が踏める。

 

 ともかく、もう性器の痒みに苦しむこともなくなった。

 息子が二度とチーズを生産することもなくなったわけだ。

 

 

 完治してからというものの、オナ禁のし過ぎで暫く勃起不全のような状態に陥った。

 

 はっきり言って、性欲がどのようなものだったのか、思い出せなくなった。

 

 エロ動画を見る私の顔はどこまでも真顔であり、「ふーん、えっちじゃん」という感想しか抱けなくなっていた。

 

 話が逸れるが、エロ動画を見るときの皆の表情はどのようなもので固定されているのだろうか。

 私は薄目でエロ動画を見るのが、デフォルトである。

 

 閑話休題

 

 てんやわんや日々を過ごしているうちに、疑似EDもいつしか治って、普段の性欲猿な男子高校生の日常へと、私もまた帰っていった。

 

 鳥は空へ、死体は土へ、性欲は男子校へ。

 恥や世間体を犠牲に、平穏な日常を私は取り戻した。

 

 

 尻切れトンボのようだが、童貞で性病になった私の話はここまでである。

 

 いかがだっただろうか。

 少々どころか、かなり気持ち悪い話が含まれていたかもしれない。

 

 

 私が性病になったことで、得た教訓というものは残念ながら一つもない。

 

 せいぜい、童貞だからと言って油断していると性病になるぞ、ということしか言えない。

 本当に、何の役にも立たない経験である。

 

 この出来事は、性病になったということ自体と、その当時の私の振る舞いがセットとなって、私的黒歴史ランキングの第三位の座にドス黒く輝いている。

 このような記事を書いてしまった、ということも、この黒歴史に組み込まれるだろう。

 

 でも、そんな人生もアリだな、と今では思える。

 童貞が性病になってもいいじゃないか、と。

 

 童貞が性病にならない世界と、童貞が不幸にも性病になる世界なら、後者の方が愉快だと、私は思う。

 

 

 ここは、童貞でさえも偶然に性病になる世界である。

 

 次に性病になる童貞は、あなたかもしれない。