12/31 曇り
今年もたくさんの本に出会ったので、特に印象に残ったものを紹介しようと思う。
今年は大学一・二年生の頃に比べれば、読むことのできた冊数は少ない。
というのも、通学の時間を誰かと一緒に過ごすことが増えたからだ。
私は本よりは人との会話を優先する質の人間なので、個人的には嬉しい理由でもある。
今年読んだ冊数は、だいたい500冊くらいだろうか。
大学生活全体で言えば累計5000冊は超えただろう。
読んだ冊数が少ないからちゃちな本しか紹介できない、という訳ではなくて、読む本が少なくなる分、読み応えのあるものを選んできたつもりだ。
それでは早速、今年出会った素晴らしい本たちを紹介していこう。
- 自動人形の城: 人工知能の意図理解をめぐる物語
自動人形の城(オートマトンの城): 人工知能の意図理解をめぐる物語
- 作者: 川添愛
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2017/12/18
- メディア: 単行本
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なんでも言うことを聞いて、なんでもしてくれる自動人形に囲まれたら、あなたは幸せですか?
誰も自分の意をくんでくれない毎日に嫌気がさした王子は、邪神に「自分の周囲の人間を自動人形に変えてほしい」と望んでしまう。
城の者はすべて人形に置き換わり、命令をしても意のままに動いてくれない人形に、王子は自分の選択を後悔する。
城に危機が迫る中、王子はその絶望的な状況にいかに立ち向かっていくのか、というストーリーだ。
ここまでだと単なるおとぎ話だが、その実、テーマは『人工知能』と『人間の言葉』である。
あいまいな命令を出しても、自動人形は全く動いてくれないし、時には頓珍漢な動きを始める。
それはプログラミング言語で命令を下されたAIにも、同じことがいえる。
この物語はありふれた成長物語などではなく、今私たちの目の前で起こっていることでもあるのだ。
ストーリーも面白く、数人の視点を飛び交う軽快さや、中盤までの何気ないやりとりが見事に回収され、物語の核心に触れる構成などは目を見張るものがある。
寒い冬によく合う、心温まる人工知能入門書だ。
- タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源
心は何から、いかにして生じるのだろう。
進化はまったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった。
一つはヒトや鳥類を含む脊索動物、そしてもう一つがタコやイカを含む頭足類だ。
「頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう」
タコ・イカの『こころ』に焦点を当てた本。
回転寿司でも安くて美味い彼らは、いかなる知性の持ち主なのだろうか。
これらの頭足類は脳よりも腕に多くのニューロンが存在し、それぞれの腕がまるで意思を持つかの如く振舞う。
私たち脊椎動物と全く異なる体の構造や『こころ』を持つ彼らは、真新しい「心身問題」を投げかけてくれる。
また、筆者は本書でタコが社会性を持ち始めているという一つの例を紹介している。
一匹の変わり者のタコから生まれたタコの都市、『オクトポリス』とは。
進化の萌芽、とくとご覧あれ。
- 異セカイ系
小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた。
小説の通り黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に……♪
ってボケェ!! 作者(おれ)が姫(きみ)を不幸にし主人公(おれ)が救う自己満足。書き直さな! 現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや!
あれ、何これ。「作者への挑戦状」って……これ、ミステリなん?
まさかの全編関西弁。
クセの強い文体だが、とりあえず30ページまで読んでもらいたい。
その後の怒涛の展開に、ページをめくる手が最後まで止まらなくなる。
もしも、自分の書いた作品に入ることができて、キャラクターとイチャつくことが出来たら……
そのような単なる妄想では、この本は終わらない。
キャラクターを愛する全ての人たちに読んでいただきたい一冊。
今まで味わったことのない読後感が待っている。
私の場合は、キュンキュンしながら読み終えることができた。
奇妙な、対象の存在しないキュンキュン感である。
あなたはこの本を読み終わったとき、どのような印象を持つだろうか?
きっと、今まで出会ってきたすべての物語が恋しくなること間違いなしである。
- VRは脳をどう変えるか?
VRを新しいゲームや映画の一種だと思っていると、未来を見誤る。
このメディアはエンタテイメントだけでなく、医療、教育、スポーツの世界を一変させ、私たちの日常生活を全く新たな未来へと導いていく。
その大変革を、心理学の視点から解き明かそう。
Vtuberが一般に膾炙し、真にVRが身近になった今だからこそ、読んでおきたいのがこの本だ。
VRは新たなメディアとして、あらゆる分野を席捲しようとしている。
VR研究の旗手である著者は、単にVRの使用を推奨するのではなく、その危険性や複雑さについても語っている。
『VR内での体験を、脳は現実の出来事として扱ってしまう』ということを大前提に、これからのVRの発展や、守るべきルールなどを明快に示してくれている。
間違いなく先の世界を変えるだろうこのメディアの基本を、一足先に押さえることができる一冊だ。
- 疑惑の科学者たち: 盗用・捏造・不正の歴史
歴史に名を残した著名な学者、天才として神格化されている学者でも、現在の基準に照らすと公明正大な人物ばかりでなかった。
本書では一八世紀から現代まで、科学にまつわる欺瞞と信じがたい不正の数々を概観する。
「巨人の肩の上に立つ」という、研究をするものなら誰も知っているだろう格言がある。
これはニュートンが手紙で述べた言葉で、先人の知見という偉大なものに乗ることで、科学は進歩していくということを喩えたものだ。
しかし、もしこの巨人自体が、ナウシカの巨神兵のように腐ったものだったら?
この本では、パストゥール、メンデル、アインシュタインといった錚々たる大科学者にも、盗用や改竄の疑いが向けられている。
さらに、近年のSTAP細胞問題でお馴染み小保方氏や、研究不正で183編もの論文が撤回されている藤井氏など、日本人研究者についても取り上げられている。
科学は万能ではないが、絶対的に正しいわけでもない。
私が専門としている心理学でも、再現可能性の問題が大いに取り沙汰されている。
気持ちを引き締める意味合いで、この本を読むことができた。
その他にも、今年は「絶滅できない動物たち」(ダイヤモンド社)、「宇宙はどこまで行けるか」(中公新書)、「科学者はなぜ神を信じるのか」(講談社ブルーバックス)、「遺伝子‐親密なる人類史‐」(早川書房)など、数多くの素晴らしい書籍と出会うことができた。
来年も、嬉しい出会いがありますように。
新年への願いも込めて、ここで紹介を終わりにさせていただく。
それでは皆さん、来年も良い読書を!